第9回TAMA映画賞 作品賞は「散歩する侵略者」と「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」

第9回TAMA映画賞 2017年 受賞作品・受賞者一覧

最優秀作品賞

『散歩する侵略者』 黒沢清監督、及びスタッフ・キャスト一同

侵略者の地球襲来を通して不穏さを帯びる現代社会を暗喩しつつ、サスペンス、アクションなどテイストの異なるシークエンスを積み重ねながら、見応えのある新しい世界観のエンターテインメントを創り上げた。

『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』 石井裕也監督、及びスタッフ・キャスト一同

今の東京において溢れんばかりに飛び込んでくる情報と都会の情景。
そのなかで孤独と見えない不安に苛まれながら愚直なまでの優しさを携えて寄り添う若者の姿は、観客に希望を与え、一人ひとりの内なる感情と共鳴した。

特別賞

湯浅政明監督、及びスタッフ・キャスト一同(『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』)

エモーショナルな躍動感をスクリーンから解き放つアニメの新たな可能性を切り拓く先駆者として。
他者との巡り会うなかで過ごす人生の愛おしさを、アニメーションであることを最大限に活かした縦横無尽・闊達自在な映像表現によってスクリーンの前に放流し、観客に醒めやらぬ刺激と幸福感を与えた。 

富田克也監督、及びスタッフ・キャスト一同(『バンコクナイツ』)

身近な仲間と自分たちの生きる世界を捉えてきた映像制作集団・空族の試みが、更なる拡がりをみせた『バンコクナイツ』に対して。
東南アジアの楽園のイメージと現実とを俯瞰しつつ、その間で翻弄される人々の坩堝に分け入って世界を捉えた本作は、スクリーンの彼岸と此岸とを共振させ、映画と現実がオーバーラップする圧倒的な映画体験をもたらした。

最優秀男優賞

浅野忠信(『幼な子われらに生まれ』『沈黙 -サイレンス-』『淵に立つ』『新宿スワンⅡ』)

長いキャリアのなかでさまざまな役柄を演じてきたからこそ生まれる存在感で映画に深みと魅力を与え、観客の想像力を掻き立てるクリエイティビティあふれる俳優として唯一無二の存在であり続けるであろう。

池松壮亮(『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』『続・深夜食堂』『永い言い訳』)

いずれの作品においてもすぐ身近にいる人間のように思わせてくれる緩急自在で豊かな人物造形力は、作品に奥行きを与えると共に周囲の人物をも輝かせ、心置きなく観客を作品の世界観に誘う魅力に溢れている。

最優秀女優賞

満島ひかり(『海辺の生と死』『愚行録』)

『海辺の生と死』において、島尾ミホが降臨したかのように加計呂麻島の言葉とリズムで語り歌いふるまい、島の神話的世界と終戦間際の生と死の極みにおける愛を匂い立つように表現して、圧倒的な存在感を観客に与えた。

長澤まさみ(『散歩する侵略者』『銀魂』『追憶』『金メダル男』)

『散歩する侵略者』において、予期せぬ出来事に運命を翻弄されながら情味のある日常感覚でそれに対峙し、極限状態においてすべてを包み込む寛大で奥深い愛情表現に磨き上げられた女優としての器の大きさを感じさせた。

最優秀新進監督賞

菊地健雄(『ハローグッバイ』『望郷』)

現場で培った確かな表現力と人間観察力で少女たちの今しか撮れない瞬間をリアルに切り取りつつ、すべての世代に響く普遍的でビタースイートな青春映画を誕生させた。監督の「映画」に対する誠実さは、遠からず大輪の花を咲かせることを予感させる。

瀬田なつき(『PARKS パークス』)

一つの公園で時を超えて広がるメロディーが、そこで過ごしたさまざまな人々の息づかいに触れて幾重にも重なり世界が彩られていく様を、軽やかなタッチで描き、映画の豊かさを味わわせてくれた。

最優秀新進男優賞

間宮祥太朗(『トリガール!』『帝一の國』『劇場版 お前はまだグンマを知らない』)

真っ直ぐでアグレッシブな役柄を、豊かな表情と鍛え上げた身体を使ってエネルギッシュ且つ繊細に演じて、観客をスクリーンに釘付けにした。鋭く優しい瞳の奥に、作品と役への深い愛情が感じられる。

高杉真宙(『逆光の頃』『散歩する侵略者』『トリガール!』『想影(おもかげ)』)

『逆光の頃』において、マイペースに生きてきた少年が過去の自分から脱皮して大人へと一歩踏み出していく確かな成長を体現し、華奢に見えながら力強い眼差しや気概によって発せられる逞しさに心を奪われた。

最優秀新進女優賞

石橋静河(『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』『PARKS パークス』『密使と番人』)

スクリーンのなかで語り動き回るさまは、漠然とした不安や孤独といった心の揺らぎを繊細に表現して内面から輝きを放った。その確かな存在感は、息の長い女優になっていくことを観客に確信させた。

土屋太鳳(『トリガール!』『PとJK』『兄に愛されすぎて困ってます』『金メダル男』)

どの役に対しても誠心誠意ひたむきに向かい合い、あふれる笑顔と抜群の運動神経で弾けんばかりに演じ切る姿は、観客の心をわしづかみにすると共に、今後一層の活躍を期待させる輝きに満ちていた。